江戸で発生する連続失踪事件と、相次いで見つかる遺棄死体。その関連を紐解いていく推理小説仕立ての時代物なのだが、書き味がなんともとぼけていて読んでいて平和になるのが面白い。一応南町奉行が主人公なのだが、この物好き奉行の語る挿話もなかなか妙味がある。全体として少し緩んだほんわかとした世界観を作り上げることに成功していて、読んでいてその世界に浸ることが出来る。
南町奉行が昔無頼漢だったなどという設定は鬼平丸写しな訳だが、作者は当然読み手がそう思うことを見越しているはずである。だからそのあたりは、あえて自覚の上で王道たる設定をそのまま使っているのだろう。
という事で読みやすく、面白く、すいすい読んで、まあまあ平均点よりは上の佳作かなと思っていたら、最後の30ページでやられました。このラストはちょっと上手すぎるよ。
心地よいやられた感に本読みとして嬉しくなる一冊。
4/May:34/2011
王子狐火殺人事件―耳袋秘帖 (文春文庫) (2011/05/10) 風野 真知雄 商品詳細を見る |